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2024年2月17日実技part1

2024年2月17日実技part1

part1 問題文

●設 例●
機械部品製造業を営むX株式会社(非上場会社)は、代表取締役会長であるAさん(72歳)が約40年前に創業した会社で、現在は長男Dさん(45歳)が代表取締役社長として経営を引き継いでいる。X社の業績は好調で、資金的にも余裕がある。当面は増収増益が予想されており、当期以降、積極的な人材確保と設備投資を計画している。

【事業承継について】
X社の経営上の意思決定に関する権限は既に長男Dさんに移行しているが、X社株式の承継はいまだ進んでいない。Aさんは、自身の名義で保有しているX社株式70%と、親族外の創業メンバー名義でAさんが実質保有しているX社株式30%(いわゆる名義株)を、自身が健在なうちに長男Dさんに移転し、X社の事業承継を完了させた後、経営から身を引きたいと考えている。ただ、X社株式の価額がどのような仕組みで評価されるのか理解できておらず、やみくもに移転した場合、高額な税負担が生じてしまうのではないかと懸念している。また、他人名義で保有しているX社株式についても、どのように取り扱えばよいのかわからないでいる。

【資産承継について】
Aさんは、X社の本社土地建物を所有し、X社に貸し付けている。自身の相続が開始した場合は、この本社土地建物を妻Bさん(70歳)に相続させ、妻Bさんが賃料収入を得られるようにしたいと思っているが、経営に関与していない妻Bさんに事業用資産を相続させることに問題はないか、アドバイスを求めている。また、現在、妻Bさん、長女Cさん(47歳)と同居している自宅は、そのいずれかに相続させたいと思っている。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金  : 9,000万円(役員退職金は考慮していない)
2.有価証券 : 6,000万円
3.X社株式 : 7,000万円
4.自宅
(1)土地(200u) : 4,000万円
(2)建物(築30年) : 1,000万円
5.X社本社
(1)土地(600u) : 9,000万円
(2)建物(築35年) : 4,000万円
合計 : 4億円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約9,300万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【X社の概要】
資本金 :1,000万円
会社規模:中会社の大
従業員数:60人
売上高 :12億円
経常利益:6,000万円
純資産 :1億6,000万円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん100%(そのうち他人名義30%)
株式の相続税評価額:類似業種比準価額3,000円/株、純資産価額8,000円/株

【Aさんの家族構成】
妻Bさん(70歳) :専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(47歳):公務員。Aさん夫妻と同居している。
長男Dさん(45歳):X社の代表取締役社長。妻と子の3人で持家に住んでいる。

【親族関係図】

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part1 ポイント解説

1. 納税資金の不足、相続税の軽減対策

(1) 生命保険・金庫株の活用
(2) 役員退職金支払い(法人税の低減、退職所得控除による所得税低減効果も有り)
(3) 自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(4) 小規模宅地の特例の活用
(5) 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用

2. 遺産分割対策・資産承継対策

(1) 遺言の作成
(2) 遺留分に関する民法の特例の活用
(3) 相続時精算課税制度の活用
(4) 孫への教育資金贈与の非課税措置の検討
(5) 生命保険を用いた長女への代償分割

3. 事業承継税制の特例の活用の留意点

X社株式については、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予・免除制度の活用により、全株式を税負担なく移転可能(納税猶予割合100%)

ただし、非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除を受けるには、会社・後継者(経営承継受贈者)それぞれの適用要件を満たした上で2026年3月31日までに特例承継計画を都道府県知事に提出して確認を受け、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることが必要(株式の贈与は2027年12月31日までに実施)。
なお、後継者は贈与時には役員就任期間が3年以上、相続発生時に役員であることが必要。

また、非上場株式会社の株式の原則的評価方式は、会社規模に応じて決められており、中会社の場合、原則としては類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式で評価するが、純資産価額方式で評価することも可能。

4. 事業承継を考慮した株主構成(名義株の整理)

安定した企業経営の継続のためには、贈与税の納税猶予特例・金庫株・後継者の役員給与の増額等による株式譲渡といった対策を組み合わせ、できるだけ後継者に株式を集約させることが望ましい。

1990年の商法改正前では、株式会社の設立には最低7人の発起人が必要であったため、創業者が出資金をすべて負担し、名義だけを借りる「名義株」により、会社登記する場合があった。
名義株の場合、株式の名義は他人であっても、名義人に対して配当が無ければ、実際に出資した人が真の株主とされるため、創業者の相続が発生した場合、名義株は創業者の相続財産に含まれることになる。

非上場株式の相続税の納税猶予・免除を受ける後継者は、相続開始日の翌日から5ヶ月経過時点で会社の代表権を有し、相続開始時に後継者と同族関係者等で総議決権数の50%超である。本問の場合、議決権総数の割合は満たしているが、名義株は親族外の創業メンバー名義であることから整理に時間を要すると思われるため、計画的に名義株を整理しておくべきである。

名義株を整理するためには、名義人による株主名簿の記載事項確認書と名義変更の合意書への署名捺印を経て、実印の印鑑証明書を添付した上で、名義人と真の所有者で会社への名義変更手続を行うことが必要。
ただし、無償の財産移転として贈与税の課税対象とならないように、名義変更手続き時の資料や配当金の支払い状況を示した資料等を残しておくことが必要。

5. 経営に関与していない妻Bさんに事業用資産を相続させることの留意点

X社株式と本社の土地・建物を後継者である長男に集中させることが、円滑な事業承継上重要である。直接事業に関与していない親族が相続すると、他者に売却されてしまうリスクや、逆に本社移転すべきときに機動的に移転しづらい等の事業運営上のリスクを抱えるデメリットが発生する。

また、小規模宅地の特例は、特定居住用宅地で330u、特定事業用宅地や特定同族会社事業用宅地等で400uまで完全併用可能であり、最大730uまで80%減額可能。ただし、特定同族会社事業用宅地等は、相続税の申告期限においてその法人の役員であることが必要であるため、妻Bさんが相続した場合には貸付事業用宅地として200uまでの50%減額に留まってしまう。

6. 自宅の相続と資産承継

相続税評価額上は、小規模宅地の特例は妻・長女のいずれが相続した場合でも小規模宅地の特例の適用対象となる。ただし、長女に相続させる場合には今後安定的に妻が自宅に居住継続できるよう、配偶者居住権を設定しておくことが望ましい。
配偶者居住権は、遺産分割で他の相続人が自宅を相続した場合にも、配偶者自身が亡くなるまでの終身居住を継続可能とする権利であり、他者に譲渡することはできない
なお、配偶者が取得した配偶者居住権を第三者に対抗するためには、配偶者居住権の登記をすることが必要。

また、配偶者居住権を設定するためには、相続開始後に共同相続人同士の遺産分割協議で決定するか、遺言で配偶者に遺贈することを記載をすることが必要。

本問では相続開始後に妻が収入を得られるようにしたいという希望があるため、配偶者居住権を設定して長女に自宅を相続させつつ、妻には有価証券や現預金を多めに相続させることで、住まいを安定させながら配当や利子収入を得られるようにしておくことも検討に値する。

●FPと職業倫理

FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、法令の遵守(コンプライアンスの徹底)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)、能力の啓発の6つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な相続税の軽減対策・資産承継対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。

◆この試験問題の公開体験談

【note】にゃんちゅう FP1級実技試験 2024.2.17 part1

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