2024年2月17日実技part2
2024年2月17日実技part2
part2 問題文
●設 例●
Aさん(72歳)は、首都圏近郊のK市内にある自宅で妻Bさん(68歳)および子Cさん(40歳)家族(妻と子2人)と同居している。A家は古くからの資産家であり、今でもそれなりの土地や資産を所有している。Aさん夫妻には子がなく、妻Bさんの妹の子であるCさんを幼少の頃に養子として迎え、現在に至っている。
Aさんには、姉Dさん(75歳)、弟Eさん(69歳)、妹Fさん(67歳)の3人の兄弟がいる。1987年に父親が死亡した際、甲土地(甲−1〜5土地)を含む相続財産について、父親の遺言に従い、その大半を長男であるAさんが相続し、兄弟3人はそれぞれ甲土地の一部(各224u)と現金500万円だけを相続した。また、Aさんは、相続するにあたり、甲−5土地(728u)をマンション事業者に売却して納税資金に充当した。
その後、弟Eさんは、取得した甲−2土地を売却し、現在はその土地上に賃貸アパートが建っている。また、姉Dさんは、取得した甲−3土地上で賃貸アパートを経営している。妹Fさんが取得した甲−4土地とAさんが取得した甲−1土地は、いずれも貸駐車場として使用されている。なお、甲土地は、最寄駅から徒歩5分と利便性が高く、周囲にはマンションやアパートなどの共同住宅が多くあり、比較的まとまった土地への需要が高い地域にある。
約半年前、Aさんは体調が優れず病院に行ったところ、肺にがんが見つかり、治療を受けることになった。Aさんは、今後の相続対策について、知り合いの不動産会社X社の社長に相談したところ、甲−1土地に賃貸マンションを建てることを勧められ、紹介された大手建設コンサルタント会社と契約し、先日、設計プランの大枠が固まったところである。
そのような折、Aさんの体調不良を聞きつけた姉Dさんが訪れ、「あなたが死んだら、A家の代々の財産がA家とは関係のないBさんの家系に渡ってしまう。それは納得できない。お父さんの相続時は遺言があったから仕方がなかったけど、あなたが生きているうちに私たちにA家の財産を少しでも分けてほしい。EもFも同じ気持ちよ」と伝えてきた。
Aさんは、兄弟の言い分にも一理あると思い、自身の相続時に妻Bさん、子Cさんが嫌な思いをしないよう、妻Bさんたちと相談のうえ、手元資金から兄弟それぞれに現金3,000万円を提供することを決め、その旨を兄弟に伝えた。ところが、弟Eさんと妹Fさんは喜んだものの、姉Dさんからは、「私はお金はいらない。アパートをもう1棟建てたいので、甲−a土地(224u)をもらいたい」と言われてしまった。甲−a土地を姉Dさんに譲ると、残った甲−1土地は形状がきわめて悪くなり、いま推し進めている賃貸マンションの建築プランに大きく影響してしまう。そこで、Aさんは、甲−b土地(224u)でどうかと姉Dさんに打診したが、甲−3土地と地続きでなければ絶対に駄目だと断られてしまい、頭を悩ませている。
なお、X社の社長からは、「甲−a土地が姉Dさんの所有になるなら、賃貸マンションの建築は諦めて、今後換金しやすいように、甲−1土地に開発道路を通し、6画地に分割する開発をしたらどうか」と勧められた。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の(1)および(2)に整理して説明してください。
(1)Aさんから直接聞いて確認する情報
(2)FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.姉Dさんに納得してもらうためには、甲−a土地を割譲する以外に、どのような方法が考えられますか。
3.兄弟に現金3,000万円や土地を提供するには、どのような方法が考えられますか。
4.X社の社長から勧められた開発案について、どのように思いますか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【甲土地の概要図】
【甲−a土地、甲−b土地の位置】
【X社の社長から勧められた開発案】
※市街化区域、第一種住居地域、指定建蔽率60%、指定容積率200%
※道路と等高、宅盤は平坦、上下水・ガスは接面道路内に整備済み
part2 ポイント解説
1. アドバイスに当たって必要な情報
(1) Aさんから直接聞いて確認する情報
甲土地は相続で取得しているが、相続により財産を取得した場合、その取得日・取得費を引き継ぐことから、当時の状況の詳細が分かる資料があるかという確認が必要。
また、Aさんは自身の相続時にトラブルにならないよう甲土地の割譲案や開発案を検討しているが、実際の相続時には妻Bさんや子CさんはAさんの兄弟とのやり取りは発生するはずであり、甲土地や現金の割譲案の内容を把握しているのか、確認が必要。
さらに、Aさんの体調次第で財産分割や活用案の残された時間的な猶予が異なるため、病状を確認することも必要となる。
(2) FP自身が調べて確認する情報
顧客が関知していない状況や、忘れている事項がある可能性もあるため、物件の登記簿と、現地の確認を行うことで、所有権・抵当権等の権利状況や土地・建物の物理的状況を、実際に確認することが必要。
また、用途地域・地方自治体の都市計画等を確認し、今後の開発予定・環境変化を把握することが必要である。
本件の場合、姉Dさんの要望である甲−a土地の割譲がどのような理由によるものか、隣接する甲−3土地にある賃貸アパートの現状(駐車場の有無、建て替え時期の見込み等)を確認しておくことが必要。
2. 甲−a土地を割譲する以外に姉Dに納得してもらう方法
●反対側で隣接する甲−4土地の買い取りと贈与
姉Dさんは取得した甲−3土地上で賃貸アパートを経営しており、隣接する甲−a土地の割譲を希望しているのは、アパートをもう1棟建てるか、隣接地とともにアパートを建替えて大規模化し、賃料収入の増加を狙っていると考えられる。
そこで、妹Fさんが所有する甲−4土地を姉Dさんが買い取り、その購入資金をAさんが現金3,000万円の贈与により援助する方法が考えられる。もしくは、甲−4土地をAさんが買い取り、その後姉Dさんに贈与する方法も考えられる。特に後者の場合、甲−4土地の相続税評価額が贈与税の課税価格となるため、現金の贈与よりも税負担は抑えられると思われる。
●X社提案の賃貸マンションの区分所有権の贈与
前述の通り姉Dさんは賃料収入の増加を狙っていると考えられるため、X社提案の賃貸マンションの区分所有権(3,000万円分)を贈与することも検討に値する。恐らく収益性はアパートの大規模化の方が高いが、賃貸マンションの区分所有権を得る場合はほぼ何の手間もなく不動産収入の増加が見込めるため、姉Dさんにとっても一定のメリットがあるものと思われる。
3. 兄弟に現金3,000万円や土地を提供する方法
一般に贈与と相続では、相続税の方が相続税の基礎控除や小規模宅地の特例等の活用により税負担が軽くなる傾向にある。このため、兄弟に現金や土地を提供する際、生前贈与だけでなく遺贈も検討に値する。ただし、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の人が、相続や遺贈で財産を取得した場合、相続税額の2割相当額が加算される。
一親等の血族とは、被相続人の父・母・子(代襲相続人となった孫(直系卑属)を含む)であるため、兄弟姉妹が遺贈で財産を取得した場合には、2割加算の対象となる。
さらに、遺言で特定の指定された遺産の贈与を受ける「特定遺贈」により相続人以外の人が土地を取得した場合には、不動取得税の課税対象となり、債務や葬式費用を負担しても債務控除できないことに注意が必要。
本問では、姉DさんはAさんが存命中の財産分割を希望しており、Aさんも妻Bさんや子Cさんが相続時に嫌な思いをしないようにという考えから今回の相談をしているため、それらを重視するならば生前贈与が望ましいということになる。
4. X社の社長から勧められた開発案の検討
勧められた開発案は、甲−1土地に開発道路を通して6画地に分割するもので、換金はしやすくなるかも知れないが、相続対策としては必ずしも有効ではないと思われる。まず各画地を1戸建て用敷地として販売して対価を得ることになりやすく、相続税評価額は賃貸マンションよりも高くなり、継続的な収入も期待しづらい。
また、比較的まとまった土地への需要が高い地域であるにも関わらず、開発道路を通す分各画地は小ぶりになり、需要に見合った土地区画とは言い難いものになる。X社としては不動産売買が複数回にわたって実施される可能性が高くなり、その分手数料収入も見込めるため、今回のような開発案を勧めたと思われる。
都市計画区域内・準都市計画区域内では、建築物の敷地は、建築基準法に規定する幅員4m以上の道路に2m以上接している必要がある(接道義務)が、甲−1土地は北側8m市道にも南側6m市道にも接しているため、接道義務に問題はない。そこで、南北で甲−1土地を分割し、それぞれ道路に面したまとまった面積の土地として賃貸マンションを建築する等の活用方法を提案可能。
5. 関与すべき専門職業家
甲土地の権利関係を整理する際における、正確な測量と境界の明示および登記については土地家屋調査士、測量結果に基づく適正な不動産価格の算定は、不動産鑑定士、土地の所有権移転登記等については司法書士、不動産取引上の課税上の取扱いに関する具体的な税務相談については税理士、権利整理後の不動産売買の媒介等の宅地建物取引業法に規定する業務に該当するものについては、宅地建物取引士が適当。
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