2014年2月15日実技part1
2014年2月15日実技part1
part1 問題文
●設 例●
Aさん(74歳)は、老舗の衣料品問屋を営むX社の3代目社長であり、現在も代表取締役を務めている。X社は順調に業績を伸ばしており、現在はアジアを中心に海外事業展開を進めているほか、今後は欧米にも進出する計画である。Aさんの意向としては、現在常務取締役を務めている長男に事業を承継したいと考えているが、二男や長女の相続分についても考えなければならないため、どのようにしたらX社を円滑に長男に承継できるかについて相談したいと考えている。ただし、Aさんの実弟であり、X社の専務取締役として長年経営を支えているBさんが、X社株式の30%と、X社の本社ビル(兼Aさん自宅)の土地の3分の1を保有しているため、その持分について長男への事業承継に悪い影響が出ないか心配している。
Bさんと長男とは経営方針をめぐってしばしば対立をしており、Bさんは、長男よりも商社勤務の二男のほうが後継者に相応しいとしばしば公言しているが、基本的にAさんの意向には逆らえない。
X社の顧問税理士に相談したところ、現時点でのAさんに係る相続税の総額は536百万円(小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられており、顧問税理士は相続人が相続税を払えるかどうか心配している。
二男は商社勤務で生活は安定している。長年、衣料品部門に所属していることもあり、X社の事業についても精通しており、本人も将来X社の経営に参画することを希望している。
Aさんとしても、今後の海外展開を見据え、二男に長男の経営の支えになってくれることを望んでいる。
長女は夫に先立たれ、子供2人を育てており、生活はAさんの援助があって成り立っている。長女はこれからの子供たちの教育資金についてAさんの存命中に目途をつけたいと思っている。
また、Aさんは余裕資金の運用について証券会社から外貨建ての投資信託の運用を勧められているが、あまり知識がないため、どうしたらよいか相談したいと思っている。
《Aさんの資産》
X社株式 630百万円(発行済株式総数の70%)
銀行預金 145百万円
X社本社兼自宅土地 300百万円(小規模宅地等の評価減適用前の相続税評価額)
自宅部分建物 100百万円
賃貸マンション1棟 250百万円
上場REIT 75百万円
合計 1,500百万円
《Aさんの家族構成》
妻 :70歳、専業主婦
長男:42歳、X社常務(妻と子供1人、自宅を保有)
二男:38歳、商社勤務(妻と子供2人、自宅を保有)
長女:37歳、パート勤務(子供2人、持家なし)
Bさん(Aさんの弟):73歳、X社専務(X社株式の30%とX社本社(兼Aさん自宅)の土地の3分の1を保有、子供2人)
《X社の概要》
株式評価上の会社規模:「中会社」(類似業種比準価額のほうが純資産価額より低い)
現金預金は1,000百万円保有
part1 ポイント解説
顧客の相談内容・問題点に対する解決策。
1. 納税資金の不足・相続税の軽減対策
(1)株式の公開(上場)
(2)保有する不動産の売却
(3)生命保険・金庫株の活用
(4)自社株式評価の引き下げ(配当・利益・純資産の引下げ)
(5)非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度の活用
2.遺産分割対策・事業承継対策
(1)遺言の作成
(2)遺留分に関する民法の特例の活用
(3)代償分割
(4)後継者へのX社株式の譲渡
3. 持株シェアと土地の共有持分の問題
X社の相続税評価額が非常に高いため、Aさんの相続問題だけでなく、Aさんの弟Bさんの相続が発生すると、相続税の納税資金を工面するため、Bさんの相続人がX社株式や土地持分を外部に売却してしまう可能性がある。
議決権株式のうち3分の1以上保有していると、株主総会における特別決議の拒否権が発生する。
また、土地を共有している場合、有効活用方法や収益配分についても共有者の同意が必要となる。
4. 実弟Bさんの株式・土地持分の買取問題
実弟Bさんの相続発生による株式の外部流出防止、及びX社本社兼自宅土地の持分流出防止のため、Bさんが保有するX社株式と土地の持分を、AさんかX社が買い取ることが望ましいが、時価(相続税評価額)より著しく低い価額で譲渡すると、低額譲渡として課税される恐れがある。
例えば、AさんがBさんから保有する株式を時価より低額で買い取る場合、買い手であるAさんには、時価と売買価格の差額に対して贈与税が課される。
また、X社がBさんから保有する株式を時価より低額で買い取る場合、買い手であるX社の取得価額は時価となり、時価と売買価格の差額は、受贈益として法人税が課される。さらに、売り手であるBさんもみなし譲渡所得として課税される(同族会社の場合、時価の2分の1以上で譲渡してもみなし譲渡所得課税される場合もある)。
5. 長女の子供2人の教育資金
教育資金の非課税特例では、直系尊属から教育資金を一括贈与された場合、受贈者ごとに1,500万円まで非課税となる(学校等に直接支払われる入学金や授業料等ついては1,500万円まで、学校等以外の者に支払われる金銭については500万円まで)。
教育資金として、信託銀行等の取扱い金融機関に預け入れ、教育資金管理契約を締結することが必要なほか、受贈者が30歳になると教育資金管理契約が終了し、終了時に非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額がある場合(非課税口座にお金が残っている場合)には、その残額はその年の贈与税の課税価格に算入(贈与税が課税)される。
資金の使用使途が限定されており、自由度は低くなるが、贈与後3年以内に贈与者が死亡した場合でも、相続税の課税財産に加算されないため、確実に教育資金として贈与することが可能。
6. FPの提案
BさんのX社株式や土地持分については、時価に近い価額での買取が必要と思われるが、X社の現預金は10億円と潤沢であり、X社が買い取ることが望ましい。
また、二男に長男の経営の支えとなることを期待しつつも、株式や事業用資産は後継者に集中させることが望ましいため、AさんのX社株式やX社本社土地については長男に相続させ、非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度や、遺留分に関する民法の特例の活用により、税負担や遺産分割争いを避けることを提案する。
7. 外貨預金や外貨建債券等による資金運用
外貨建て投資信託等の外貨建て金融商品には、為替変動リスクがあるため、基本的に円高外貨安になると、円ベースで評価損が膨らむことになる。急激な円高が進んだ場合には、高利回りをうたっている金融商品であっても、為替変動による損益が最終的な運用実績を左右しやすい。
Aさんの現在の金融資産は、将来のリタイヤ資金かつ相続税の納税資金ともなるものであることから、外貨建て金融商品に投資するとしても、全体の一部に留めておくことを提案する。
FPと職業倫理
FPの職業倫理は、顧客利益の優先、守秘義務、説明義務(アカウンタビリティ)、顧客の説明・同意(インフォームド・コンセント)の4つ。
本問では、FPと顧客の利益相反や顧客の秘密漏洩を懸念する局面ではなく、顧客に対し金融商品取引法等における重要事項の説明義務に関わる段階でもなさそうですので、一番重要なのは、様々な納税資金対策・遺産分割対策の方法やそれを適用した結果をきちんと説明し、顧客の理解度を確認する「インフォームド・コンセント」ということになるかと思います。
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