問52 2023年9月応用
問52 問題文
Mさんは、Aさんに対して、公的年金の年金額の改定について説明した。Mさんが説明した以下の文章の空欄(1)〜(5)に入る最も適切な語句または数値を、解答用紙に記入しなさい。なお、問題の性質上、明らかにできない部分は「□□□」で示してある。
「公的年金の年金額は、賃金や物価の変動に応じて毎年度改定が行われます。原則として、年金額の改定にあたっては、新規裁定者である( 1 )歳到達年度前の受給権者の年金額は、名目手取り賃金変動率を基準として改定され、既裁定者である( 1 )歳到達年度以後の受給権者の年金額は、物価変動率を基準として改定されます。ただし、『名目手取り賃金変動率<物価変動率』となる場合は、新規裁定者、既裁定者ともに( 2 )に基づいて改定されます。
現在、賃金や物価に基づく改定率を更に調整し、緩やかに年金の給付水準を調整する『マクロ経済スライド』が適用されています。これにより、将来の年金受給者となる現役世代の過重な負担を減らし、年金の給付水準を確保することを目指しています。具体的には、『公的年金被保険者総数の変動率(当該年度の前々年度までの( 3 )年度平均)と平均余命の伸び率を勘案した率』を『スライド調整率』として年金改定に反映させています。
なお、このマクロ経済スライドを適用することにより、年金額が前年度の年金額よりも低下する場合、年金額の改定は行われず、賃金や物価が下落した場合は、マクロ経済スライドによる調整は行われません。マクロ経済スライドが適用されなかった分は翌年度以降に繰り越され、マクロ経済スライド未調整分となります。
2023年度の年金額の改定に用いられる名目手取り賃金変動率は2.8%、物価変動率は2.5%でした。加えて、2023 年度のマクロ経済スライドによる調整率が▲0.3%、2021 年度・2022 年度のマクロ経済スライド未調整分による調整率が▲0.3%であったことから、2023 年度の年金額は、新規裁定者が( 4 )%、既裁定者が□□□%で改定されました。
老齢基礎年金の年金額は、法定額である78万900 円に国民年金の改定率を乗ずることで改定されます。老齢厚生年金の年金額は、厚生年金保険加入中の標準報酬月額、標準賞与額に乗じる( 5 )を改定することにより、年金額が改定されます」
問52 解答・解説
公的年金額の改定に関する問題です。
公的年金は、原則として、毎年の賃金水準や物価水準の変動に合わせて改定(賃金・物価スライド)されますが、賃金水準のデータは2年度前から4年度前までの3年度平均の賃金変動率を用いるのに対し、物価水準は前年の消費者物価指数の変動率を用います。ここで、65歳の支給開始年齢に達した人の年金額は67歳までは賃金変動率に基づいて改定され、68歳になった以降は物価変動率に基づいて改定されます。
つまり、67歳までは新たに年金をもらい始める新規裁定者として現役世代の賃金変化に合わせて改定し、68歳以降は既に年金をもらっている既裁定者として年金価値を維持できるよう物価変動率で改定されるわけです。ただし、賃金よりも物価の変動率が大きいときはいずれも賃金変動率に基づいて改定されます(現役世代の収入がインフレに追いついていないなら、年金世代も同様の変動率にするわけです)。
また、マクロ経済スライドは、被保険者数の変動(3年平均)や平均余命の伸びに合わせて毎年度の年金額を改定し、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。ただし、年金額が前年度より低下する場合は年金額の改定は行われず(名目下限維持措置)、賃金や物価が下落した場合はマクロ経済スライドによる調整は行われません(賃金・物価スライドで改定)。ここで、このままだと将来の高齢者世代の給付に影響が出ることから、マクロ経済スライドが適用されなかった分は翌年度以降に繰り越されます(マクロ経済スライド未調整分)。
従って、年金改定時の賃金変動率2.8%・物価変動率2.5%である場合、まず賃金・物価が上昇しているためマクロ経済スライドによる調整率▲0.3%が適用され、繰り越されていた未調整分▲0.3%も適用されます。
新規裁定者の改定率:賃金変動率2.8%+マクロ経済スライドによる調整率▲0.3%+未調整分▲0.3%=2.2%
既裁定者の改定率 :物価変動率2.5%+マクロ経済スライドによる調整率▲0.3%+未調整分▲0.3%=1.9%
つまり物価が2.5%上昇しているものの、年金はその上昇率に追いついていないため、実質的には目減りしているわけですが、年金財政健全化のためにこうした調整が行われているわけですね。
こうして算出された改定率を用いて、実際に支給される老齢基礎年金・老齢厚生年金の基準額が、以下の計算式で改定されます。
老齢基礎年金(満額):法定額780,900円×改定率(賃金または物価の変動率+未調整分を含むマクロ経済スライド調整率)
老齢厚生年金(平均標準報酬額)=標準報酬月額・標準賞与額×再評価率(賃金または物価の変動率+未調整分を含むマクロ経済スライド調整率)
つまり、老齢基礎年金では法定の年金額そのものに改定率を乗じて算出するのに対し、老齢厚生年金では年金額のもととなる標準報酬月額や標準賞与額を現在の賃金・物価で再評価した上で平均額を算出します(いずれも、この後に納付月数等を反映して実際の支給額に反映)。
以上により正解は、(1)68(歳) (2)名目手取り賃金変動率 (3)3(年度)
(4)2.2(%) (5)再評価率
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